今月の一枚

ザ・トリオ VOL.1 (The Trio Vol.1)

演奏者:
ハンプトン・ホーズ (Hampton Hawes) ピアノ奏者
誕生日:
1928年11月13日(1977年5月22日没、享年48歳)
録音日:
1955年6月28日
共演者:
レッド・ミッチェル (Red Mitchell) ベース奏者
チャック・トンプソン (Chuck Thompson) ドラム奏者

<アメリカ西海岸のジャズ(West Coast Jazz)との遭遇>

 今月が誕生日のハンプトン・ホーズは、アメリカ合衆国ロサンゼルス生まれ。父親が宣教師だったこともあり、早くからスピリチュアル・ソングに根ざしたピアノを弾き始め、高校在学中に既にプロになっている。また、彼は、1952年から2年ほど兵士として日本に駐留、夜明けを迎えつつあった日本のジャズシーンに多大の影響を与えたと言われている。

 このアルバムは、私が83番目に購入したレコードアルバム。前回のブログでも記載したように、初心者だった私は、ジャズ評論家諸氏による推薦アルバムなどを参考にコレクションを増やしてきた。現在でもよくあるが、当時も、日本のレコード会社が海外のレコード会社の名盤などの版権を取得して、廉価盤として10枚~25枚程度の単位で販売しており、今回のアルバムもこのような廉価盤シリーズとして販売されていたシリーズに含まれていたアルバムだった。

 このアルバムのおおもとのレコード会社はアメリカの会社で、そのレーベル名はコンテンポラリー(Contemporary)と言うレーベル名だった。購入した後に分かったことだが、この会社は、アメリカ西海岸(West Coast)を拠点にしているいくつかのレコード会社の中でも、良心的なアルバムを作ることで知られており、西海岸きっての名門なのである。

 それまで、私はアメリカ東海岸やヨーロッパのレコード会社制作のレコードを購入していたが、初めてコンテンポラリーが制作した作品、先ずは、以前から聴いて知っていたソニー・ロリンズが演奏しているコンテンポラリー・レーベルのレコード、「ウェイ・アウト・ウェスト」(Way Out West)を購入して聴いてみた。ソニー・ロリンズの演奏は相変わらず素晴らしかったが、第一印象は、カリフォルニアの青い空を連想するような、爽やかで陽気な雰囲気が漂っていて、それに加えて音までも透き通って聴こえた。この音がいっぺんで気にいってしまった。その後、アート・ペッパー、アンドレ・プレビン、フィニアス・ニューボーン・ジュニアなどのジャズ・ミュージシャンのアルバムを購入した。これで、彼らの名前が、初めて私のコレクションに加わった。そして、今回の今月の一枚となったハンプトン・ホーズのアルバムもそうなったのである。

<ハンプトン・ホーズの音楽>

 彼の音楽は、誤解を恐れず一言で言うならば歯切れがいい。それはテンポの速い曲はもちろんのこと、バラードのようなスローテンポの曲でも一音一音がクリアカットで明快だ。それは彼がロサンゼルス生まれというアメリカ西海岸特有の温暖な気候が影響しているのだろう。一方で、前項で記したように、早くからスピリチュアル・ソングに親しんでいたこともあり、ブルース・スピリットを遺憾なく発揮して、あらゆる曲を彼なりの解釈で表現しているように思う。しかし、このブルース・スピリットの発揮の仕方が、一概には言えないが、アメリカ東海岸出身のジャズ・ミュージシャンと少々違っているように思える。最近は使われなくなった表現だが、ハンプトン・ホーズの演奏はいい意味で「根明(ねあか)」、東海岸のジャズ・ミュージシャンはいい意味で「根暗(ねくら)」かな。いづれにしても、彼の演奏スタイルは、他のジャズ・ピアニストにはないオリジナリティが感じられると思う。

<アルバムの雰囲気と気に入った曲>

 このアルバムは、1955年6月に録音された。時期としては、彼が日本での駐留を終え、アメリカに帰国して間もなくして録音されたという。当時、輸入盤として日本に紹介され、ジャズ喫茶での人気盤としてリクエストの多かったアルバムの一つであったそうである。改めて聴いてみると、「さもありなん」というか、収録されている曲のバランス、彼のオリジナル曲とスタンダードナンバーのバランス、テンポの速い曲・バラード・ミディアムテンポの曲のバランスなど絶妙としか言いようがない。そのどれもが彼の演奏スタイルを如実に捉えていると思う。

 その中で、私の気に入った曲は、彼のオリジナル曲でB面の一曲目にある「ハンプのブルース (Hamp’s Blues)」。最初から親しみやすいアップテンポのテーマ曲のフレーズが心地よい。曲名の通り、ブルースでありながら、哀調を含んだフレーズというより、楽しささえ感じる曲調がWest Coast的だと言えるのだろう。こういうブルースも気持ちが前向きになっていいですね!

 レッド・ミッチェル (Red Mitchell) もWest Coastにおける代表的ベース奏者の一人であり、堅実にベースラインを刻んでいる。ドラムスのチャック・トンプソン (Chuck Thompson) はリズムを正確に叩き出し、ハンプトン・ホーズをサポートしている。このアルバムは、私をWest Coast Jazzの楽しさに誘ってくれた、きっかけになった素晴らしいアルバムになった。

 是非、お店でこの名演を堪能してみてはいかがでしょうか。