今月の一枚

セロニアス・モンクとアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズ (Art Blakey’s Jazz Messengers With Thelonious Monk)

リーダー①:
セロニアス・モンク (Thelonious Monk) ピアノ奏者
誕生日:
1917年10月10日(1982年2月17日没、享年64歳)
リーダー②:
アート・ブレイキー (Art Blakey) ドラム奏者
誕生日:
1919年10月11日(1990年10月16日没、享年71歳)
録音日:
1957年5月15日
共演者:
ジョニー・グリフィン (Johnny Griffin) テナーサックス奏者
ビル・ハードマン (Bill Hardman) トランペット奏者
スパンキー・デブレスト (Spanky DeBrest) ベース奏者

 今月の一枚は、10月が誕生日の二人(セロニアス・モンクとアート・ブレイキー)が共同名義となっているアルバム。セロニアス・モンクは、アメリカ合衆国ノースカロライナ州生まれ、その後4歳の時にニューヨークに移住。アート・ブレイキーは、ペンシルベニア州ピッツバーグ生まれ。両人とも知る人ぞ知るジャズの巨人と言っていいだろう。

<セロニアス・モンクの音楽>

 このアルバムは、私がジャズ音楽を聴き始めて、32番目に購入したレコードアルバム。初めてジャズレコードを購入して以来、ジャズ関連のFM放送・専門雑誌を通じて、ジャズ評論家諸氏による推薦アルバムなどを参考にコレクションを増やしてきた。このアルバムには、ピアニストとしてセロニアス・モンクが参加しているが、31番目のアルバムを除いて、過去の30枚のアルバムの中には彼のピアノは無かった。というのも、FM放送ではセロニアス・モンクのピアノを聴いていたが、今まで聴いてきた他のジャズ・ピアニストのピアノと全くと言っていいほど違っていた。その当時の感想を、誤解を恐れずに言うならば、彼のピアノはちゃんとスイングしていない、ミストーン(?)が混ざっている、だから取っつきにくい、といったところか。だからセロニアス・モンクというピアニストを敬遠していたのも事実だった。

 ところが、私より早くジャズ音楽を聴きだした姉が、「セロニアス・モンクはユニークで面白いよね、よく聴くと唯一無二のスイング感があるからじっくり聴いてみたら」とサジェスチョン。そこで、31枚目にセロニアス・モンクのピアノトリオ版「ザ・ユニーク」を購入、何度も聴いた。聴いていくうちに、私が知っている、「スタンダードナンバー」に対して、和音・単音の配列や音出しのタイミングが意外で、こんな解釈があるんだ、愉快じゃないか、と感じた。この意外なタイミングが一般的なスイング感から逸脱しているようにも思えるが、よく聴いていると「おぉー、そう来たか!」という、いい意味での期待外れのスイング感が存在している気がした。めっちゃスイングするジャズもいいけど、セロニアス・モンクの個性的なスイングもいいなぁと思った。

 ともあれ、セロニアス・モンクの音楽に非常に興味が湧いたので、今度はピアノトリオではなく、トランペットやサックスが参加したアルバムを聴きたくなった。そこで、今回取り上げたアルバム「セロニアス・モンクとアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズ」 (Art Blakey’s Jazz Messengers With Thelonious Monk) を購入した。

<アート・ブレイキー>

 今月のもう一人の主役、ドラム奏者のアート・ブレイキーは、前回のブログで登場したドラマー、マックス・ローチと並ぶ、モダンジャズドラマーの巨人。また、彼は「ジャズ・メッセンジャーズ」という楽団(5~6名)を結成して、実力あるミュージシャンや将来有望な若手を楽団に引き入れて紹介・育成してきた。その結果、ジャズ・メッセンジャーズを卒業したミュージシャン達の多くは、その後独立してジャズ界で確固たる地位を築いていると言っても過言ではないだろう。そういう意味で、アート・ブレイキーは、ドラマーとしては当然ながら、楽団を運営していくマネージメント能力にも長けていたと言える。

<アルバムの雰囲気>

 アルバムに話を戻すと、このアルバムは、セロニアス・モンクとアート・ブレイキー率いるジャズ・メッセンジャーズが共演した唯一のアルバムである。もう一つ、このアルバムに特徴的なことは、このアルバムで演奏されている曲は、一曲を除いて5曲全てがセロニアス・モンクの作曲によるものであるということ。モンクの曲はユニークな曲が多いため、その曲を演奏するトランペット奏者やサックス奏者は、作曲者であるモンク色の影響を受けざるを得ず、結果的にモンク・ワールドが演奏全体に表出することになる。また、ドラム奏者であるアート・ブレイキーは、以前からセロニアス・モンクとの共演を多く経験しており、セロニアス・モンクの一番の理解者であることも、モンク・ワールドを確固たるものにしていると思う。

<気に入った曲>

 私は、このアルバムの中で、B面の一曲目「アイ・ミーン・ユー(I Mean You)」が一番気に入っている。セロニアス・モンクが作曲した曲は、やや難解な曲が多い印象を持っているが、この曲は乗りがよく、楽しい曲である。ソロ演奏の順に簡単にコメントすると、テナーサックス奏者ジョニー・グリフィン (Johnny Griffin) は、エモーショナルなフレーズをよどみなく生み出し、よくドライブしている。モンクはテーマ曲を連想させるようなフレーズを入れながら、「意外なタイミング」での朴訥(ぼくとつ)とも思える音出しがなんとも言えず新鮮でユーモラスにも思えて楽しく、モンクなりのスイングもよくしている。トランペット奏者のビル・ハードマン (Bill Hardman) もホットでファンキーなプレイで応酬。その後のアート・ブレイキーのドラムソロは、彼としては珍しく共演者を鼓舞するようなドラミングというよりも、より冷静というかタイトで正確なドラミングという印象を受け、これはこれで凄いプレイだ。

 このアルバムは、それほど高い評価を受けていないが、私個人的には印象に残る好きなアルバムだ。是非、お店でこの名演を堪能してみてはいかがでしょうか。