今月の一枚

ケリー・ブルー (Kelly Blue)

演奏者:
ウィントン・ケリー (Wynton Kelly) ピアノ奏者
誕生日:
1931年12月2日(1971年4月12日没、享年39歳)
録音日:
1959年2月19日、3月10日
共演者:
ナット・アダレイ (Nat Adderley) コルネット奏者
ボビー・ジャスパー (Bobby Jaspar) フルート奏者
ベニー・ゴルソン (Benny Golson) テナーサックス奏者
ポール・チェンバース (Paul Chambers) ベース奏者
ジミー・コブ (Jimmy Cobb) ドラム奏者

<ウィントン・ケリーとの出会い>

 今月が誕生日のウィントン・ケリーは、西インド諸島ジャマイカ生まれ。ニューヨーク、ブルックリン育ち。ティーンエージャーのときリズム&ブルースのバンドでキャリアを積んだとされている。

 このアルバムは、私が30番目に購入したレコードアルバムだ。このアルバムのリーダー、ウィントン・ケリーという名前は、やはり彼がリーダーとなっている20番目に購入した「ケリー・グレイト(Kelly Great)」というアルバムで初めて知った。

 その時のいきさつはこうだ。当時、シカゴのレコード会社である「ビー・ジェイ・レコード(Vee Jay Record)」のアルバムの版権を日本のレコード会社が取得して、廉価版シリーズとして20枚、国内で発売になった。そのシリーズの中の一番の推薦盤として、この「ケリー・グレイト」が紹介されていた。レコード販売店でこのレコードと一緒に入っていた評者のライナーノーツ(解説文)を見ると、発売になった20枚の中でも一二を争う「傑作」との評価であった。傑作の理由の詳細は割愛するが、まだ初心者である私は買うしかないと思った。

 早速聴いてみる。ところが、かなり期待していたからかも知れないが、演奏は素晴らしいのだが、私のハートにすぅーっと入って来なかったのである。ジャズを聴きだしてまだ一年も経っていない初心者だったからだろうか。それから何回か聴いたが、リーダーのウィントン・ケリーの弾むようなスイング感は気に入ったものの、アルバム全体の印象として若干物足りなかったこともあり、それ以降、このレコードは聴かなくなってしまった。

 次の21番目に買ったのが「Cannonball & Coltrane(キャノンポール&コルトレーン)」という輸入盤のアルバム。このアルバムにもウィントン・ケリーがピアニストとして参加していた。後から判ったことだが、このアルバムは、原盤が「キャノンボール・アダレイ・クインテット・イン・シカゴ (Cannonball Adderley Quintet In Chicago)」というアルバム名だったが、当時は廃盤になっていたため、別のレコード会社から、違うアルバム名、違うレコードジャケット(演奏曲目は同じ)で発売されていたのである。輸入盤だったので、日本語による評者のライナーノーツはなかったが、ウィントン・ケリーに加え、ジョン・コルトレーン (John Coltrane) やキャノンボール・アダレイ (Cannonball Adderley) は、既に購入したアルバムでよく聴いていたので、安心して購入したわけだ。

 このアルバムを聴いて、私は度肝を抜かれてしまった。スイング感が半端じゃない。演奏者5人全員が一体となってノリに乗っているのだ。フロントラインであるキャノンボール・アダレイとジョン・コルトレーンは言わずもがな、リズムセクションであるウィントン・ケリー、ベーシストのポール・チェンバース、ドラマーのジミー・コブも、バッキングに、ソロ演奏にと、ハイテンションで応じている。特にウィントン・ケリーは、最初に購入したアルバム「ケリー・グレイト」の何倍もスイングしていてかっこよかった。ここに来て、私はウィントン・ケリーのスイング奏法(そういう奏法があるのか分からないが)の虜になってしまった。

 これ以降、立て続けに彼のリーダーアルバム4枚、「ケリー・アット・ミッドナイト」(26番目)、「ケリー・ブルー」(30番目=今月の一枚)、「ウィントン・ケリー(日本盤名:枯葉)」(34番目)、「ウィントン・ケリー・ピアノ(日本盤名:ウィスパー・ノット)」(73番目)を購入した。今回その中から、「今月の一枚」として「ケリー・ブルー」を採り上げたい。

<ウィントン・ケリーのピアノスタイル>

 彼のピアノスタイルは、大雑把に言うと楽しい・美しいの二言に尽きる。このスタイルは、彼がリーダーとなっているアルバムでも、そうでないアルバムでも、同じだ。私は聴いていて本当にニンマリしてしまう。特に、ソロ演奏のときに顕著になる。

 先ほど、スイング奏法と言ったものの、私はそんな名前の奏法を聞いたことがないが、彼の演奏をよく聴くと、同じ時間内で叩く音符の数が他のピアニストより1、2音多いのではないか、あるいはそのように聴こえるからだろうか、そのため跳ねた印象になり、それがスイング感を倍増させているような気がしてならない。私はこのいっぱい詰まった音のラインが好きでたまらない。この音のラインは、アップテンポの曲であろうが、バラードのようなスローテンポの曲であろうが、あらゆる場面で出くわす。私はその度にニンマリするのである。ジャズピアニストの間で「最もスイングするピアニスト」との評価を得ていたのは、この「スイング奏法」が他の追随を許さないオリジナリティとして発揮されていたからだと思う。

<アルバムの雰囲気と気に入った曲>

 今月の一枚「ケリー・ブルー」は、1959年2月と3月に録音されている。時期としては、彼があのマイルス・デイビスのバンドに加入したころに録音されており、ウィントン・ケリーの実力がマイルス・デイビスに認められたことを意味している。このアルバムは、6曲で構成されていて、そのうち、2曲が6人全員参加、残りの4曲がピアノトリオ(ピアノ、ベース、ドラムス)という楽器編成になっている。

 アルバムの雰囲気としては、ウィントン・ケリーが作曲した曲が3曲、スタンダードナンバーが3曲と、バランスの取れた選曲になっている。演奏は全体的にリラックスした中にも、ウィントン・ケリーのオリジナルチューンについては、適度な緊張感を保ちながら、メンバー全員がそれぞれの持ち味を存分に出している。このアルバムの主役、ウィントン・ケリーは、というと、全てのチューンで、あのスイング奏法が炸裂、とめどなく溢れ出るメロディーが美しい。

 その中で、私の気に入った曲は、甲乙つけがたいが、やはり彼のオリジナル曲でA面の一曲目、アルバム名にもなっている「ケリー・ブルー (Kelly Blue)」か。最初から親しみやすいミディアムテンポのテーマ曲のフレーズが心地よい。ピアノ、フルート、コルネット、テナーサックスとソロが続くが、ソロパートの間間にテーマ曲が入る構成が面白い。ベースのポール・チェンバース、ドラムスのジミー・コブは、同時期にウィントン・ケリーとともにマイルス・デイビスのバンドにいたこともあり、気心知れた仲であり、堅実なサポートに徹している。

 ウィントン・ケリーは、何と39歳でこの世を去ってしまった。そのため彼がリーダーとなっているアルバムは残念ながら多くはない。ウィントン・ケリー・ファンになってからは、彼がリーダーとなっているアルバムはもちろん、参加しているアルバムも見つけては買い求めて、彼のスイング奏法をニンマリして聴きたいと思っている。

 是非、お店でこの名演を堪能してみてはいかがでしょうか。